お食事の準備はこれですべて終わり。
食堂のお掃除も、皆の身だしなみも、最後の確認をいたしましょう
ジルベール様が小さい頃に好きだったあれをお入れいたしました。
気づいてくださるでしょうか・・・
さあ、時間です。
参りましょう。
お食事の準備はこれですべて終わり。
食堂のお掃除も、皆の身だしなみも、最後の確認をいたしましょう
ジルベール様が小さい頃に好きだったあれをお入れいたしました。
気づいてくださるでしょうか・・・
さあ、時間です。
参りましょう。
ぼくがあのぎんゆうし人さんとはじめて会ったのはいつだろう。
おやすみをもらってまちをあるいていると、聞きなれない音がくが聞こえてきた。
にぎやかなさかばから聞こえる音がく。
さかばなんていったこともなかったけれど、もっと聞いてみたくなった。
ぼくはとびらをあけてさかばへはいった。
そこにはわらいごえとにぎやかなうたごえ、そしてはじめて聞くがっきの音!なんてすてきなんだろう。
このきもちをうまくあらわせない。
今まで、なんとなくくらしてきたぼくがこんなにもすきになったもの。それが音がくだった。
それからぼくはときどきさかばへいって、ぎんゆうし人さんにおねがいして、いろんな歌をおそわることにしたんだ。
やしきをこっそりぬけだすこともあった…ごめんねカーンさん。
ぎんゆうし人さんはなまえもなのらないしどこの国の人かもわからない。ただつぎにいくまちのなまえだけをぼくにいって、ふらりとこのまちからいなくなる。
そしてまたふらりとこのまちにもどってくる。
おやしきはきらいいじゃない。ごしゅ人さまはとてもそんけいできる人だし、カーンさんはこわいけどぼくにとってたったひとりたよれる人。
グロリアはちょっとなにかんがえてるかわかんないときもあるけどぼくはああいう、じぶんというものちゃんともっている人はすごいとおもう。
フォリアはたよりないし、どじばっかりするけどみんなにすごくすかれてかわいがられているのがわかる。
でもぼくは、からっぽだ。ぼくはこのままここにいていいのかな…。
「何をなさっているのです?」
声をかけると、若い執事はギクリと身を強ばらせた。
ジルベール様をお迎えするお食事会の準備を少し抜け、ご子息の剣の稽古の準備をしようと自室へ戻る途中、見慣れない青年が周囲を見回しながら廊下を歩いているのを見つけた。
あまりにも不審な動きだったので後をつけてみたら、これだ。
先日、ベラドンナの鼠を追い出したばかりだというのに……。
「ここは、ジルベール様の書斎ですよ」
固く、強く言い放つ。
この部屋に入れる人間は限られている。
御家族、カーン様……そして、私。それ以外は主からの許可がない限り入らない決まりとなっている(私が決めた)。その許可が降りるのも、本当に一部の限られた使用人のみ。
冷や汗を流しながら床に視線を彷徨わせるこの執事は、そのどちらでもない。
あまりにもわかりやすい反応に、もう少し上手くやればいいものをと思う。
「……あら、新しい使用人ですか?」
だから、じっと執事を見据えて、わざとらしく言い放つ。我ながら意地が悪い。
若い鼠は、大袈裟なくらい肩を揺らしてから、控えめに頷いた。
「では……ご存知ないのも仕方がありませんね」
優しく微笑んで言いながら、一歩、一歩、ブーツの音をわざと響かせて歩み寄る。
こんなに優しく言葉をかけて差し上げているというのに、鼠はまるで猛獣を前にしたかのように、 小刻みに震えながら後ずさる。
だが、残念。後ろは壁。
「……あの御方には、優秀な番犬がついているのですよ」
お前も牙の餌食になるか?と、暗にそう込めて追い詰めた鼠に言えば、悲鳴をあげながら逃げ出した。
盗人か、ベラドンナの間者か……まぁどちらにしろ、カーン様に報告しなければ。
ふと、鼠が走り去った後に光るものを見つけた。カフスボタンのようだが、彼が落としたのだろうか?
拾いあげてみると、それは紋章が入っていた。
……その紋章が何であるか気づき、心臓が痛いほどに跳ね上がる。
首筋の脈が鼓膜まで叩くように鳴り響いて、背中を冷たい汗が流れた。
近隣国、ディセントラの紋章。
何故あの国の者が、この屋敷に忍び込んでいたのか……皆目、検討がつかない。
ジルベール様がただの貴族なら話は別だが、あの御方は宰相だ。
その屋敷に間者を寄越すなど……。
できれば主の耳には不穏な話を入れたくなかったのだが、これは事が事なら戦争になりかねない事態だ。
カーンさんがまためんどうくさいたのまれごとをひきうけてきた。
ジルベールさまがぼくらしよう人のしょくどうでおしょくじがしたいだって…
カーンさんはいつもこういうめんどうなことをひきうけてしまう。
でもそれをかいけつしちゃうのがカーンさんなんだけどね。
ああいう人をメイド・オブ・オールワークってよぶらしい。
ジルベールさまもかわったかただ。でもああみえてとてもやさしい人だとぼくはおもってる。
だからこんかいもきっとよろこんでくださるんだろう。ぼくもちょっとはがんばらなくちゃ。
それよりも…
フィレンツェからまたあのぎんゆうし人さんがくるらしい!
ぼくのあこがれの人だ!たびをしてたくさんみたことをうたにしてくれる。
こんどはどんなうたをおしえてもらおうかな。
こないだおそわったうたはもうおぼえたんだ!きいてもらってわるいところがあったらなおさなきゃ。
いつかはぼくも…
ジルベールさまがくるあいだにぬけだしたりできるかな。
あ、そうだ!ぎんゆうし人さんがひまだったらうちのおやしきにきてもらえないかな!たのんでみよう!
ジルベール様が私たちの食堂にいらっしゃるですって?
本来ご主人様が来るような場所ではないけれど、
少しでも気持ちよくお過ごしいただけるようにしなくちゃ…!
いつもより念入りにお掃除して、
お花も飾って…!
お茶菓子のご用意はした方が良いかしら?
メイド長に相談してみましょう。
いけない!私ったらまた…!
どこに落としたのかしら…後できちんと探しておかなくちゃ。
とにかく!
当日は無事ジルベール様にご満足いただけますように…。
なんと…ジルベール様が、御子息様の召し上がった賄い飯にご興味を⁉︎
私達に労いのお言葉を下さるだでも身に余る誉れだというのに…っ
素晴らしい…
これは日頃の恩義をお伝えするまたと無い機会だ。
カーン様が指揮を取られるのならば、このヘリオがすべき事は、最高のお持て成しをするべく心置きなく備えること!
ジルベール様が所望されるであろう食材、お飲物、デザート、お目通し下さる屋敷の空間、食堂の彩り、あらゆる感覚にご満悦頂けるように…!
皆様はお屋敷にお帰りいただくと同時に、中世へとタイムスリップいたします。お屋敷デーをより楽しんでいただけるよう、お屋敷デーのシステムについてご案内いたします。
1.お客様はみなさまが、お屋敷の主人「ジルベール」
使用人たちは皆様一人一人をジルベールさまとしてお迎えいたします。
使用人たちに自由に話しかけるのも、お屋敷の様子を静かに観察するのも自由です。
ゆったりと思いのままにお過ごしください。
2.お食事とお飲物があります
お屋敷デーではお客様ごとに、お食事とお飲み物をご用意しております。おなかをすかせてご帰宅ください。
またお飲み物の追加も承ります。その際はお代をテーブル上の封筒にお入れいただき、お花と交換し、メイドまたは執事にお花をお渡しください。
両替が必要な場合はメイド長カーンへお声がけください。
ソフトドリンク=500円 アルコール=700円
3.サロンコンサートがあります
11/25のお屋敷デーep.1では吟遊詩人(久野幹史さん(昼・夜)とRitaさん(夜))をお迎えしてサロンコンサートがございます。
こちらは投げ銭制となっております。その際お気持ちをテーブル上の封筒にお入れいただき、メイドにお申し付けください。花束と交換させていただきますので、吟遊詩人へとお渡しください。
4.撮影録音は禁止でございます
中世では目の前で起こる出来事を記録するすべはございません。現代におけるカメラ、録音機器、電子機器のご使用は絶対におやめください。
5.お屋敷内は禁煙でございます
使用人の食堂は地下にございますため、禁煙です。
我が主は馬鹿でいらっしゃいますでしょうか?
カーン様から手紙の話を伺った時、大変失礼ながら真っ先にそう思いました。
今までもあの御方の思いつきや行動に戸惑い、肝を冷やす事は多々ありましたが、流石に正気の沙汰とは思えません。
先日も、ベラドンナ侯爵の汚職・蛮行を独自に調べて暴き出したり、国王陛下御親覧のパーティーで直訴したり……あの時は、本当に生きた心地がしませんでした。
その騒動のほとぼりも冷めていないうちに、これですもの。
貴族社会は足の引っ張り合い。
陛下から信頼の厚いジルベール様を妬み、根も葉もない噂を流す貴族は多い。万が一、その様な者達に知れれば、「ジルベール様は使用人と同じ粗末な物を食べている」と社交界で陰口を叩かれることは間違いありません。
特に、件のベラドンナ家は家名に泥を塗られたと、血眼になってジルベール様の欠点探しをしていることですし。
しかし、もしそうなってもあの御方はきっとそんな侮辱、気にもとめずに「お前達の作る食事の素晴らしさを知らないなど、勿体ない」などと仰るのでしょう。
こんな愚かな御方、私の知る上流階級にはいらっしゃいません。
だからこそ、仕えてるわけですが。
もし、主のよからぬ噂を流す者がいれば、黙らせるだけのこと。そのきっかけとなる鼠は排除すれば良い。
そもそも、当日はその様な鼠が入り込まないよう、最小限の使用人で留めるようカーン様に進言しておくことにしましょう。
あぁ、そうだ。最近入ったダツラという使用人、ベラドンナ家の間者だったから、暇を出すようにも伝えなくては。
……忌々しい過去も、こういう時は役に立つ。
我が主の身も名誉も、お護りするのが私の仕事。
はて、いったい私はどうすればよいのでしょう。
ご主人様からこのようなお手紙をいただきました。
これまでも私はご主人様の相談や願いにはどんなものでもすべて答えてまいりました。
これはとても難しい問題です。
ですが、私はこのお屋敷を束ねるメイド長。
ご主人様の願いをかなえるのが、私の使命です。
早速、準備に取り掛かりましょう。