メイド グロリアのつぶやき
我が主は馬鹿でいらっしゃいますでしょうか?
カーン様から手紙の話を伺った時、大変失礼ながら真っ先にそう思いました。
今までもあの御方の思いつきや行動に戸惑い、肝を冷やす事は多々ありましたが、流石に正気の沙汰とは思えません。
先日も、ベラドンナ侯爵の汚職・蛮行を独自に調べて暴き出したり、国王陛下御親覧のパーティーで直訴したり……あの時は、本当に生きた心地がしませんでした。
その騒動のほとぼりも冷めていないうちに、これですもの。
貴族社会は足の引っ張り合い。
陛下から信頼の厚いジルベール様を妬み、根も葉もない噂を流す貴族は多い。万が一、その様な者達に知れれば、「ジルベール様は使用人と同じ粗末な物を食べている」と社交界で陰口を叩かれることは間違いありません。
特に、件のベラドンナ家は家名に泥を塗られたと、血眼になってジルベール様の欠点探しをしていることですし。
しかし、もしそうなってもあの御方はきっとそんな侮辱、気にもとめずに「お前達の作る食事の素晴らしさを知らないなど、勿体ない」などと仰るのでしょう。
こんな愚かな御方、私の知る上流階級にはいらっしゃいません。
だからこそ、仕えてるわけですが。
もし、主のよからぬ噂を流す者がいれば、黙らせるだけのこと。そのきっかけとなる鼠は排除すれば良い。
そもそも、当日はその様な鼠が入り込まないよう、最小限の使用人で留めるようカーン様に進言しておくことにしましょう。
あぁ、そうだ。最近入ったダツラという使用人、ベラドンナ家の間者だったから、暇を出すようにも伝えなくては。
……忌々しい過去も、こういう時は役に立つ。
我が主の身も名誉も、お護りするのが私の仕事。
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